旅の四十:「さらば、斉藤製糸場/南アルプス市」
先日、山梨の地方紙(山梨日々新聞)を読んでいたら、
南アルプス市の製糸場が老朽化による取り壊しを検討して
おり、撤去前にせめて貴重な地域の遺産を知ってもらおうと
「地域遺産“再発見ツアー”」が開かれる、とありましたので、
友人と3人で秋風の中バイクを駆って行ってきました。
斉藤製糸場は、南アルプス市の旧白根町飯野にあり、
昭和26年(1951)から平成11年(1999)まで操業し、最盛期
には130人ほどが就業していたそうです。約7000㎡の敷地
には繭倉庫・煮繭場・繰糸場・揚げ返し場や女子寮が、現在も稼動当時のまま存置されていました。
今回の見学会は、南アルプス市文化協会が主催したもので、
300人以上の参加者があったようです。私たちは11時過ぎに到着し、ツアーとは別に独自で観させていただきました。
まず目を引いたのが煙突。高さ30mもあるそうで、遠くからでも目につきます。そして、鉄筋コンクリート造4階建ての繭倉庫。これらは比較的しっかりしていましたが、他の木造の建物は
いずれも老朽化が激しく、種別毎に増築したのか、いくつもの
建物が棟別に建っており、雨仕舞いが悪いからだと思いますが、部分的には危険を感じるほどの痛みようでした。
昨今は地域にいくつか存在した製糸工場も殆ど消え、今また、まだ動きそうな自動繰糸機などを抱いたまま、この製糸場も
消えようとしています。初めて訪れ、しかもそれが永遠の見納めになるだろうという、束の間の出会い。この製糸場には、建築物としての歴史的・文化的な価値は残念ながら見出せません
でしたが、日本を支えた産業の遺産がまたひとつ消えること
には、一抹の寂しさを感じてなりません。
このように衰退をたどる製糸業界の中で、今も頑張って操業を続けている工場もあります。去年、富岡製糸場の調査の一環で訪れた群馬の碓氷製糸です。ここでは斉藤製糸場とほとんど
同じ機械が今も稼動し生糸の生産をしています。訪問時は繭の搬入から乾燥・貯蔵、そして選繭・煮繭・繰糸・揚げ返しなど
全ての工程を見せていただきました。現代の製造業はほとんどがIT化されていると思いますが、今もなお戦後の機械が動き
続けているのは、関係者のものすごい努力があってのことだと思います。こういった産業の「遺産」も、できることなら人から
人へ伝え、残していってほしいものだと思います。