旅の九:「30年前、長野の寺巡りの巻/別所温泉」
今回は私が建築を意識した頃の懐かしい話をしたいと思います。
私は、今から30年も前の中学頃から、何故だか、まったく覚えていないのですが、お宮やお寺の建物や御神輿、仏像が好きになっていたんです。そして、修学旅行で訪れた京都・奈良での素晴らしい歴史的建築物の法隆寺や薬師寺、唐招提寺などを見た事によって尚一層、興味を持つようになりました。
中学生の頃は自転車で近所のお宮やお寺を見て回ったり、牛倉神社(上野原で一番大きな神社です)のお祭りで各部落の御神輿を見比べ屋根形式や造形の違いについて調べたりしてました。高校時代には、バイクに乗れるようになり、自ずと行動範囲も広くなり、塩山の恵林寺や雲峰寺、山梨市の窪八幡神社など県内や八王子、青梅など多摩地域の古刹を古寺ガイドブックで調べて散策しました。
その中で特に印象深い、家族旅行で訪れた長野県別所温泉のいくつかのお寺について書きたいと思います。
なんせ30年近く前の事ですので、今とはぜんぜん違っているかも知れません。また、写真もその当時の物ですから今はどうなっているんでしょう?アルバムに書かれてるその当時の感想も織り交ぜながら綴ってみます。「:」がアルバム内の文章の抜書です。
「まず最初に訪れたのが前山寺。大銀杏を前にしてそりたつ三重塔は未完成の塔と言われている。茅葺の本堂も美しかった。僕達の他には誰も居なくて何となくさみしい感じの寺だった。」
前山寺:真言宗の寺院で1200年前頃の平安時代に弘法大師によってはじめられたと伝えられています。三重塔は三間三重塔婆こけら葺きで室町時代後期の建立。二層、三層の縁・高欄、扉、長押などが無く未完成の塔と言われている要因です。同時期頃に建てられた長野県臼田町の新海三社神社三重塔と同形式であり、おそらく完成していればとても良く似たスタイルの塔だと思います。
「次は中禅寺。境内は草が生え荒れている中に建っており、前山寺とは対照的に整備されていなかった。鎌倉初期の宝形造茅葺の薬師堂。山門には立派な仁王像があった。」
中禅寺:真言宗の寺院で前山寺同様、弘法大師開創と伝えられています。薬師堂は鎌倉時代初期の三間堂で宝形造茅葺、一間四面堂形式の情緒のあるお堂です。
「常楽寺は中禅寺からかなりの時間がかかった。細い道を通ったりしてやっと着いた。ここには何人か参拝者が居た。本堂は前山寺と同じ形式だった。木立の中に石造多宝塔があった。」
常楽寺:天台宗の寺院で平安時代初期に慈覚大師によって開かれたと伝えられています。石造多宝塔は鎌倉時代後期のもので木造多宝塔形式の珍しい石造塔です。
「安楽寺は常楽寺からそんなに離れていなかった。ここには八角三重塔があった。階段を登った上に建っていた純唐様の国宝八角三重塔。一言、素晴らしかった!」
安楽寺:鎌倉時代後期の正応元年(1288)樵谷惟仙が開創した禅寺。天正8年(1580)臨済宗から曹洞宗に改宗。八角三重塔は鎌倉時代後期の初重もこし付八角三重塔婆。本格的な禅宗様式で現存唯一の八角三重塔。今でもその美しい姿は記憶に印象深く残っています。
「次に大法寺。安楽寺から、かなり時間がかかった。りんご畑の小道を登った上にあった。こちらは純和様の桧皮葺きの三重塔が美しかった。見返りの塔と言われています。」
大法寺:奈良時代の大宝年間に藤原鎌足の子定恵の開創と伝えられる天台宗の寺院。三重塔は三間三重塔婆桧皮葺きで鎌倉時代末期正慶二年(1333)の建立。初重の柱間は特に大きく二層、三層と徐々に小さくなる逓減率の大きいどっしりとした安定感のある塔です。初重の組物は二手先で二層、三層は三手先の和様。こちらも国宝で安楽寺の八角三重塔とは対照的な造りだが見返りの塔と言われてるように振り返りたくなる美しい塔です。
このように素晴らしい建物が多く残っている信州の鎌倉・別所温泉。また訪ねたくなりました。