旅の八十:「柏谷家住宅 横手市」
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
平成22年、第一回目の旅日記は昨年の秋に訪ねた、秋田県横手市にある横手市指定文化財『柏谷家住宅』をご紹介
します。
柏谷家住宅は4年ほど前、道路拡幅工事に伴い、蔵の移転を行いました。この工事の際、私は拡幅道路に面する壁面の
ファサードの設計を手がけました。設計に当たっては何度か
現地を訪ねたのですが、完成後はなかなか行く機会がなく、
行きそびれていたのですが、昨年の秋にやっと訪ねることが
できました。
まずは柏谷家住宅の概要と道路が拡幅される前の状況、
そして、拡幅後の私が設計した現在の状況について説明
したいと思います。
柏谷家は横手市四日町で呉服屋の店を構えた住宅です。
敷地の東側道路に面した店蔵は、明治22年に建てられた
土蔵造で、屋根は切妻造、壁は黒漆喰で仕上げられています。旧い住宅は明治36年の大火で焼失しましたが、店蔵は焼失を免れ、現在の住宅は、焼失直後、店の奥に建てられた木造
2階建住宅の主屋です。さらに奥には、大正3年に建築した
蔵座敷と米蔵の2棟を並んで配していました。2棟の蔵は同じ造りの2階建で、外壁の腰部を白タイルと煉瓦積とし、
蔵座敷内部は漆塗りで仕上げていました。これら4棟の建物の全ては屋根で繋がれ、外観上は巨大な1棟の建物のように
見えました。そして、2棟の蔵の裏側には裏通りがあり、
この裏通りが4年前の拡幅工事によって、今ではメイン道路となっています。
当時はこの道路拡幅予定地内に蔵座敷と米蔵の2棟が
入っていたため、主屋の北側に移転することになったのです。蔵が移転されると、一つの屋根となっている主屋の西側に穴が開いてしまうので、ここを塞ぐ壁を作り、同様に移転する蔵の
前にもホール的な空間を作る必要があったことから、
その設計を依頼されたわけです。
設計では、裏面道路が拡幅工事後はメイン道路となるため、
横手の町屋の雰囲気を残したファサードとし、2棟の蔵の
西面の意匠ともマッチするようなデザインとしました。
その他にも構造上の制約があったり、文化財的にも貴重な
建物でしたので、重要文化財の保存修理と同様に現況建物を工作せずに負担を掛けないような設計としました。
主体工事の建物移転等には直接関与していませんでしたが、蔵の移動には、基礎下に補強コンクリートの地中梁や耐圧盤を設置し、蔵と一体的な構造として曳き屋を行いました。
まず、裏通りから見て左側の蔵座敷から移動しました。
左方向の北側に約10m移動し、その後、表通り方向の東側へ約16m移動させ、主屋の北隣に定着しました。
次に、右側の米蔵の移動も同様に、まず北側に約27m移動
させてから、東側へ約16m移動し、定着させて完了。
という手順で行われました。したがって、移動前と後では蔵の
移動前は裏通りから向って左側が蔵座敷、右側が米蔵
だったのが、移動後は右が蔵座敷で、左が米蔵と、位置が逆になっています。そんなこんなで無事、蔵の移動や
ファサード工事も完了し、道路も拡幅されたわけですが、
今回見に行ったところ、柏谷家以外にも店などが建ち並び、
町屋風なレトロな雰囲気の町並みを形成させていました。
歴史ある町、横手の観光の一役を担えたと思い、
安心しました。
今頃、横手は雪の中で、かまくらを目当てに訪れる人たちも
多いと思います。もし、お出での際にでも気にとめて頂けたら
幸いです。