2002/11/13 番外編 「『東横イン不正改造問題』で思ったこと」
昨年来、建築に係る問題が、次から次へと出て来ていますね。困ったもんだ!まず出たのが、アスベスト問題でした。これは今国会で「石綿による健康等に係る被害の防止・・・・」の法律改正を行なっており、石綿の使用禁止や解体時の処理方法などが明確になっていくのでしょう。次に大きく社会を揺るがした耐震偽装問題。こちら、建築士や確認検査員などの行政処分は、ほぼ決まったものの、いまだに逮捕者も出ず、住民の補償や根底に渦巻いているものは、まだ明確には見えてきません。果たしてどのように展開していくのでしょうか?そんな混乱の最中、今度は、ホテル東横インの不正改造問題が発覚しました。今回は、この問題に関連して、私が前々から思っていることについて書いてみたいと思います。
この東横インの不正改造問題は、完了検査後、身障者用施設や駐車場を客室などに改造したことが、建築基準法やハートビル法、あるいは自治体の条例に違反している、というものです。不正改造はかなり悪質で、やりすぎだよ!とは思いますが、この手の問題は、実は、我々建築業界では、かなりあることだと思います。要するに、実現したい建築物には法律的に問題があるという場合、とりあえず合法な建物を完成させ、完了検査を受けて検査済証を頂き、その後、こそこそっと改造を行なう、という意味です。実際行われているものは、東横インのように営利を狙った悪質なものではなく、個人が生活していく上で必要にかられて行なう場合が多いと思います。本来はいけない事であり、違法行為だと知っててやることは勿論いかんのですが、現実的には、知らないで行なってる場合もかなり多く、これもまた問題だと思います。そんな、ちまたで見かける身近な事例に次のようなものがあります。
●カーポートや物置を建てる場合も「確認申請」が要る!
住宅の新築後、カーポートや物置を建てることがありますが、これは「増築」とみなされ、増築の確認申請が必要なんです。皆さん知っていましたか?都市計画区域内の防火地域・準防火地域では面積の緩和がありませんので、全ての増築に確認申請が必要です。防火地域・準防火地域以外の地域でも10㎡以上の建物を増築する場合は、確認申請が必要なんです。
●防火地域などでは、屋根がアクリル板類ではダメ!
さらに、カーポートやテラス、バルコニーなどの屋根にアクリル板やポリカーボネート板が使われているのも、ほんとはまずいんです。防火地域・準防火地域・建築基準法第22条地域では、火災時の火の粉による延焼の発生防止のため、屋根材が制限されており、不燃材等で葺くか、もしくは国土交通大臣の認定の取れたものを使わなければなりません。外壁等についても同様で、防火地域・準防火地域、こちらは建築基準法第23条地域では、外壁の延焼の恐れのある部分には、壁材の制限があるんです。
10㎡以上のカーポートや物置を建てるほか、テラス、バルコニーなどの屋根を付けるのも増築になります。これらについて、どれくらいの施主さんが確認申請を取っているのでしょうか。取っていない方のほとんどの場合、法律を知らないで行なってしまっている「違法行為」だと思います。業者やメーカーは解かっているのでしょう。もっとも「これくらいの物に時間とお金をかけて確認申請を取れるかよ!」って気持ちも解からなくはありませんが、「法令を厳密に遵守しよう」とするなら、確認申請を取らなければいけないのが、今の法律なんです。
とにもかくにも、現在の建築基準法のもとでは、「違反」は、このような小さなものから、東横インのような計画的で悪質なものまで無数に存在していると思います。結局、このように法律の網をくぐってしまう現実が多くなってしまうのは、法律の周知、啓蒙が行き届いていないことはもちろん、建築基準法をはじめとして、行政側にもある程度、責任があるんじゃないのかな?と思います。
いろいろ諸問題のある建築基準法。これから改正しようとしているのでしょうから、罰則規定の強化だけでなく、こうした「現場の現実」といったことにも取り組み、良いものは良い・ダメなものはダメと、きちっと分けて、緩和できるもの・免除できるものは、そうしてやるべきだと思います。そして「故意で悪質な違法行為」には厳しく対処し、「現実的に仕方のない違法行為」は極力なくなるようにしながら、ほんとうに暮らしの実際と希望に沿った建築が実現できる社会にしたいものです。