旅の百十四:「奏楽堂/東京都台東区上野」
このところ上野公園によく行くのですが、少しずつ秋めき、
たくさんの人達が散策するのを横目に見ながら、建物の調査をしたり公園管理事務所で打合せをしたりしています。そんな訳で今回は、上野公園にある旧東京音楽学校奏楽堂をご紹介
いたします。
奏楽堂は、明治23年(1890)に東京音楽学校の演奏ホール
として建設されました。外観はルネサンス様式を基調とした、
中央棟に両翼棟が取り付く左右対称の建物です。
中央棟は1階の正面中央には玄関ポーチ。玄関を入ると
中廊下が奥と両翼棟に伸び、その両側には事務関係の部屋や食堂などが配されています。2階は音楽ホールで、後方の舞台から前方の客席へ緩い階段状の雛壇となっており、
折り畳み式の固定椅子が設置されていますが、初期の頃は
置き椅子式だったようです。
桁行26.4m、梁間16.4m、客席338席のホールは、日本初の
オーディトリウムで、壁や床には藁や大鋸屑を詰め、天井は
中央部をヴォールト状とするなど、音響効果を考慮したもの
です。屋根にはホールの換気のためのベンチレーターも
設けられています。また、舞台の中央部にパイプオルガンが
設置されていますが、これは大正7年(1918)に麻布の
紀州徳川家、徳川頼定侯爵が創建した南葵楽堂に日本で
初めて設置されましたが、関東大震災で南葵楽堂が破損し
使用不能となったため、昭和三年に寄贈されたものです。
両翼棟は、2階建てで右翼棟左翼棟とも、中央棟接続部付近に階段を設け、1・2階とも片廊下型式で教室や練習室など
大小の部屋が7室ずつ並びます。当初は右翼棟から左翼棟
まで、78mもの長さがあったようですが、昭和59年から
62年の移転修理工事の際に両翼棟の一部を撤去し、
現在は約40mに縮められました。
このような旧東京音楽学校奏楽堂の、瀧廉太郎や山田耕作
などを育んだ歴史のある空間で、チェンバロなどを奏でる
クラッシク音楽が聴けるのはなかなかのものだと思います。
これから、すこしずつ涼しくなるでしょうから、皆さんも
上野公園を散策しながら、奏楽堂でチェンバロの演奏などを
聴いてみては如何でしょう。