旅の二十九:「山梨の建築」
先日、今までの日記をなんとなく見ていたら、昨年は工事現場と文化財の調査のことだけで、建築の紹介を一件もしていないことに気がつきました。
確かに、思い起こせばやたらと追いまくられて、目の前のことだけで精一杯の一年でしたので、日記もおのずと同じようになってしまいました。
今年も、既に忙しいのは忙しいんですが、気持ちの上で、すこし余裕を持って日記を書きたいなと思っています。
そんなわけで今回は、昨年の秋、建築士の仲間と「地元山梨の良い建築を観よう」と廻った、いくつかの建物を紹介したいと思います。
● まずは、「アリア・ディ・フィレンツェ」。
甲府市内のファッション工業団地とでも言うのか、山梨の地場産業である宝飾や甲州印伝(鹿皮に漆加工を施した伝統工芸品)などのファッションメーカーが入居している企業団地です。
そこは一般的な工業団地の印象はまったく違って、むしろ公園の中にある美術館や博物館などの建物のように、それぞれの建物がうまく融合していました。歩道は遊歩道のようにくねくねと曲がったり、広い石畳みだったりしており、敷地の境界線もあるのでしょうが、官民境も民民境も障壁となるようなものは無く、街全体が統一を持った一体感で形成されていて、素晴らしいなと私は思いました。
● 次は山梨学院大学の「シドニー記念プール」。
富士山の稜線を思わせるような流線型の屋根と前面ガラス張りの壁面によって、研ぎ澄まされたような、シャープさを演出したとってもきれいな建物でした。
● そして清白寺仏殿。
ここを訪れたのは実に二十数年振りです。その当時も観光客が来るわけでもなく、ひっそりとたたずんでいるようでしたが、今も変わらずしずかーにたたずんでいました。まさに不変の美しさです。
清白寺仏殿は国宝で、応永22年(1415)に建てられた、三間三間、一重、裳階(もこし)付入母屋造りの典型的な禅宗様建築です。斗きょうは出三斗と簡素だが詰組としており、垂木は扇垂木となっています。これらとともに禅宗様の特徴である木割り細く、軒反りの強さなど、整ったその容姿は、鎌倉の円覚寺舎利殿、東村山の正福寺地蔵堂に匹敵します。
その隣にある大きな茅葺きの建物が庫裏で、その当時は、まだ重要文化財に指定されていませんでしたが、江戸時代の禅宗様庫裏の貴重な遺構として、昨年ようやく指定されました。
このように新しいものから古いものまで、観て廻ったのですが、山梨にもいい建物があるなー!とあらためて思いました。これからも、この日記のタイトル通り「旧き、良き、新しき、建物たち」を数多く訪ねて御紹介していきたいと思います。興味をもたれた方は、ぜひ現地を訪ねてみてください!