旅の三:1996年3月 「日本最古の大学/八日市場」
千葉県の八日市場市に日本最古で最高位の飯高壇林(だんりん)があります。壇林とは仏教の学問所のことで、現在で言えば大学にあたります。その飯高寺を私が保存修理の現況調査で訪れたのが、七年前の三月。樹齢300年以上の杉林の森の中に訪れる人も無く、廃壇から120数年の歴史を感じさせるようにひっそりとではあるが雄大に建っていました。
飯高寺は日蓮宗の壇林の中でも最高位に位置し、初等教育課程から専門研究課程に至る8階級があり、全過程の終了まで36年間も要したそうです。最盛期には600~800人の学僧が学び、59棟もの衆寮が建ちならんでいたと言われてます。その壇林も学制発布で明治7年1874年に廃止され、日蓮宗大学にその役割を譲り、それが今の立正大学となっています。
その時に、保存修理が計画されていたのは総門と講堂です。総門は延宝八年1680年に建てられた、一間高麗門。講堂はもとの大講堂が焼失し、慶安四年1651年に再建された桁行九間梁間六間、寄棟造りの建物でした。現状調査では建物の平面・立面はもとより、高さを表すための断面を実測し、床下から屋根裏まで隈なく調べました。その折、小屋組がかなりいじられていているのが確認できました。解体修理の際にはどのような痕跡が出てきて、どんな形に復原されるのかな、と興味深く思ったことを覚えています。
それから7年、工事中は見に行く機会も無かったのですが、修理工事も終了しました。そこで先日、訪ねてみました。森も空気も凛とした雰囲気も7年前と変わらなかったのですが、講堂は屋根が復原され、寄棟造り鉄板桟葺きが入母屋造り栩葺き(とちぶき)になっていました。建築にとって屋根はとても重要で、屋根の形によってその印象はかなり変わります。講堂も屋根が変わっただけですが、まるで別の初めて見る建物のような気がしました。しかし、他は殆んど変わっていず、当たり前ですが虹梁も蟇股も木鼻もそのままで7年間にスケッチしたその形を思い出しました。
総門の修理は、講堂のような復原は無かったようですが、所どころの部材が新しくなっていたり、埋め木などが見られました。修理工事が始まる前までは、毎年秋に地元の主催で飯高壇林コンサートが開催されてたようです。工事終了後はじめてのこの秋、再開されるのか分かりませんが、多くの人に見て頂きたいなと思います。